自分がしたこと本当に分かってる?
これから書くことは、あくまで事実を元にしたフィクションということでお読み頂ければ幸いです。
リアタイヤをパンクさせたカブを自走で若い男性が持ち込んできた。自宅からうちの店を遥かに飛び越え、最初に持ち込んだ店では体良く断られ、そこから再び自走でうちの店へ。その距離は5キロを下らない。案の定と言うべきか、中のチューブは絡み合い、一部はタイヤのビードとリムの間に挟まれ〝舌〟を出していた。
パンクに気がついていて、その空気の抜けたタイヤのバイクを自走で持ち込むのにも驚くが、そのまま送り出す店も店だ。たった数キロの距離とはいえ、万が一にも走行中にタイヤがホイールから外れれば、運転している人間はどうなる?普段は他人に無関心な俺だが、考えれば考えるほど、ムカムカと腹が立ってきた。
チューブタイヤの交換は、スクーターのようにタイヤチェンジャーが使えない。タイヤレバー2本を駆使して、手組みするしかない。店の外でタバコをのんびりとくゆらす男性に、タイヤレバーを当てるとリムの外周に貼った装飾のシールが剥がれることを断り、なんとかチューブを引きずり出した。四角く磨り減ったタイヤはもちろん交換するが、外側にも、素手で触って確かめた内側にも一切の突起物の類は認められなかった。走行中に絡みついて伸びてしまったチューブだが、当節はパンク修理の際にチューブにパッチなど貼らない。チューブそのものを即交換だ。ホイール自体に無謀な走行による歪みが出ていないことが不幸中の幸いだった。
『簡単に見えるだろう?今のバイクはチューブレスを履いているから、バイク店でも手組みをすることがほとんどない。組む時にチューブをタイヤレバーで噛んだら、それで全て終わりなんだよ。分かる?』
作業の様子を見ていた男性にそう言うと、『へえ…そうなんですか?』と店を訪れた当初と全く変わらず、屈託のない返事をした。事前の連絡もなしにいきなり来た人間の依頼を引き受け(それも他店に断られて仕方なくという事情をこちらが分かった上で)作業をしていることに何も感じていない様子だった。俺は腹が立つのを通り越し、だんだんと呆れ始めていた。
(続く?)