最後の電話
高校を卒業した年の夏、彼は同級生の一人に電話をかけた。
彼が電話した同級生は、幼稚園の頃からの付き合いだった。二言三言、お互いの簡単な近況を報告しあったのもつかの間、同級生は『もういいか?』と素っ気なく言い、その言葉に促されるように、彼の方から電話を切った。
彼はそれから地元を離れて就職したが、親の希望もあって、就職から丸一年後にそれまでの仕事を辞め、地元に戻り再就職した。
新しい仕事にも慣れて三年ほど経ったころのこと、彼の勤務先にあの同級生が訪ねてきた。『仕事の都合で、地元へ帰って来ることになった。またこれからよろしく頼む』と、挨拶がてらに、同級生は彼に自分の近況を報告した。
年が明けて元日、あの同級生からも年賀状は変わらず来ていたが、彼はその年に限って年賀状の返事を出そうかどうか迷った。迷っているそのうちに、いつのまにか松も取れてしまい、立春を迎えるころには、彼の頭から年賀状も同級生の存在も消えた。
あの『もういいか?』は、電話を、だったのか、それとも今後の付き合いを、だったのか。春が来ると、彼はあの電話の同級生の声を、たまにおもいだすことがある。