フロントキャリパーのメンテナンス
プロにキャリパーのオーバーホールを頼むと、ブラケットのボルトがガチガチに「これでもか」という感じで、きつく締められていることが多い。ちなみに、1100のカタナでも、ブラケットのボルトの締め付けトルクは38N·mだ。
自分が実際にキャリパーをブラケット(キャリサポ)から外すときは、ソケットをつけたT型のハンドルを使う。上の画像のような道具の使い方は通常ではないし、何より道具自体が痛むから、緊急時以外はやりたくはない。どうしても外れない場合や道具がないときの対処に限られる。(画像よりも六角の根元付近までメガネを通して回すほうが、六角にねじれが起きにくいとおもう)
昔、新車で買ったゼファー750のフロントキャリパーに引きずりが起きたことがあった。2枚のディスクの外周表側には、明らかに変なアタリができていて、購入当初から何キロ走ろうが、その跡がディスクから消えない。走行中に〝サー〟という音はする*1ものの、運転には支障がなかった。しかし、そのまま走り続けるにはもちろん不安がある。試しに、ブラケットを留めているボルトを一本外すと、〝コロン〟って感じで、ワッシャーが一枚床に落ちた。確認すると、ワッシャーは4本のボルト全部に付いていた。そのワッシャーの厚みだけ偏りが出て、引きずりが起きているだろうことは予想がついたが、ボルトを元どおりに締めて、(ワッシャーの件は告げずに)バイク店へ連絡して取りに来てもらった。数日して、バイクは修理を終えて戻って来た。
『点検したので、大丈夫だろうと思います。こういうことは、たまにありますが問題ありません。故障や不具合ということではないです。おっしゃっているディスクに付いている跡は、走っているうちに消えていきます』
バイク店の整備主任は、手短に修理内容を自分に説明すると、帰って行った。
その直後、倉庫で再度ゼファーのブラケットのボルトを外すと、あったはずのワッシャーは4枚とも消えていた。
後日、ゼファーの慣らしが終わって、オイル交換にバイク店に行った。その際に、ブラケットのボルトを自分で外して、ワッシャーを見つけたこともバイク店に伝えた。だが、バイク店の返事は、『ワッシャー?そんなものありませんでしたよ』というものだった。
そこそこに長い自分の車歴の中でも、ブラケットのボルトにワッシャーが付いていたことはない。ゼファーのパーツリストを念のため確認したが、やはりワッシャーは無かった。新車には違いないようだったが、今もってワッシャーがなぜ付いていたかは謎だ。(純正のキャリパーを装着していて、ワッシャーをセンター出しのシムの代わりに使うことも考えられない)ゼファーのフロントディスクについていた跡は、バイク店が説明した通りに、しばらく走っているうちに消えた。
キャリパーのメンテに話を戻します。
キャリパーをブラケットから外したあと、ブレーキホースにテンションがかかるのを防ぐために、S字フックで吊る方法も昔に試したことはある。試した結果からいうと、細かい部分を洗う際には最終的にS字フックからキャリパーを外さないとやりにくいし、作業効率がお世辞にもいいとは言えない。
自分の場合は、画像のようにクルマを洗うときのバケツの上にステンレンスのトレイを置いて、そこにキャリパーを置いて洗浄する。キャリパーを〝点〟で吊るよりも、〝面〟に置くほうが安定するし、途中で作業を中断したい場合も簡単に行える。
キャリパーを丸洗いする際は、昔のTV通販でお馴染みだったシンプルグリーン(希釈タイプ)を使う。作業後に残った水気はコンプレッサーのエアーで吹き飛ばしてウェスで軽く拭き取ってしまうだけでいいから、屋内で全ての作業を完結させることができる。定番の台所用洗剤は、久しく使っていない。泡切れが悪いから、そのために水が多く必要になる。必然的に屋外での作業を強いられ、まだまだ寒いこの時季はつらい。
パッドの厚みは十分にあり、片減りもなし。パッドスプリングとパッドピンは洗浄して再使用。
キャリパーは、洗浄したあとにエアーで水気を十分に飛ばし、最後に軽くウェスで拭き取る。ブレーキレバーを握って、ピストンの頭を少し出し、側面に耐熱のシリコングリスを塗り込み、スムースに動くか指で押して確認する。*2 ピストンのパッドの当たり面には、〝鳴き止め〟にカッパーグリスを薄く塗布しておく。
キャリパー本体をキャリサポにボルトで仮止め。パッドをセットしたら、パッドスプリングで押さえ、耐熱のシリコングリスを塗布したパッドピンを挿し込む。パッドピンは、脱落防止のベータピン(4パイ)で忘れずに留めておく。
仮止めのキャリサポのボルトを、トルクレンチで本締め。
今回の締め付けトルク値は、38N·mで。
最後にブレーキレバーの感触が固くなるまで数回握り込んで、作業は完了。
ブレーキキャリパーを含む制動装置は重要な部品です。当記事を参考にされて同様の作業を行い、もし不具合や事故が起きた場合、当方は一切の責任を負うものではありません。作業に自信がない場合は、プロに任せることを強くお勧めします。