紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ

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俺のエイジングはなかなか進みそうにない。

『お母さんのお手伝い?若いのに偉いわねえ……』

 

キャップを被って仕事をしてても、通りすがりの人間が声をかけてくる。これが休憩をしてると、非農家の人間にはよほどのんびりした風情に映るのか、話し込んでその場に居座ってしまうことがよくある。せっかくの体を休める貴重な時間が台無しになるのに加え、つぎの作業の段取りの話もなかなか母と出来ず、ほとほと困ることがある。

それにしても、今日俺に話しかけてきた女性は、母の知り合いということなら、同年代だと思うが、(母との親子関係を認識しているにも関わらず)息子の俺の年齢をわかっていないようだった。

 

 

旧車に乗っている人間なら、特に理解してもらえるとおもうが、雨の日にバイクに乗ることは極力避けている。だから、倉庫へ入れる前に土埃をコンプレッサーで吹き飛ばすことはあるが、外で洗車をするほど汚れることは年間に数えるほどだ。

『ほら、あのコ、例の……』

で、その滅多にやらないバイクの洗車を倉庫のシャッターの外でやっていると、道行く人間が何事か喋っているのが聞こえて来る。その日も保育園の迎えの帰りらしい女性二人の話し声が俺の背中越しに聞こえてきた。「あのコ」というのは、どうやら俺のことを指して言っているらしい。彼女らと俺の年齢はどのくらい離れているんだろう。ひと回りぐらいでは利かないほど、向こうの年齢が下だろうとおもうが。下手すると、俺の娘と言って通用するくらい若いかもしれない。

 

 トータルでみて、実年齢よりも若く見られることは損することのほうが多い。免許証の年確後に、明らかに俺に対する言葉が丁寧になる警察官にもこれまで何度か遭遇している。見た目で俺の年齢を判断している連中との交渉事は本当にしんどい。舐められているらしいことがわかると、それとなく自分の年齢を相手に告げて危機を回避したことも実際にある。一般人の俺でさえ、このような始末だから、交渉のプロともいえるような職業の弁護士や税理士が、実年齢よりも出来るだけ老けて見られるように努力するという話もよくわかる。

『所帯臭さを身につけたい』

そんなことを言うと、同年代の既婚者には怒られそうだが、俺の日常のフラストレーションの大部分は解決するんじゃなかろうか。そんな気がしないでもない。

 

昨日の夕食後。

 

ローカルテレビ局の番組最後のタイトルバックに姫路城が映る。平成の大修理が終わったばかりの姫路城は目映いばかりに真っ白だ。これから年月を経て「白鷺城」の別名通りに、落ち着いた風格のある白色に変化していくことだろう。

『姫路城のエイジングがいい感じになってくるころには、俺もいい感じに年相応のジジイに見られるようになってるんだろうか?』

テレビを見ながら、そんなことを考えていた。

 

 

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