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水没して不動になったスクーターを修理してみた。

先日の西日本豪雨で、地元も被害を受けました。近所の道路のあちこちで冠水していたせいもあって、うちの店に下の画像のアドレスV50Gが修理依頼(=水没により走行不能)で入庫しました。

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うちの店に入庫してきたのが、7月8日。エンジンが始動できたのが10日でした。店に持ち込まれた当初はキックペダルが全く下りない状態でした。以下、始動に至るまでの作業をまとめました。

 

1.バッテリーのマイナスの結線を外す

不測の事態に至ることを防ぐため、まず電気を止めます。

2.マフラーを外す

もしかすると、フランジを緩めた段階でエンジンから水が出てくるかもしれません。マフラーは、エンジン側(=フランジ)を下にして、立てて乾かします。構造的には、逆さにして立てておくほうが水は抜けやすいということです。

3.エアクリーナーを外す

キックペダルが下りないこととは直接関係ないですが、点検はしておきます。案の定というべきか、水を吸ったエアクリーナーは、手で触るとネバネバとした糸を引きました。とりあえず洗油(=灯油)に付けて洗って乾かしておきます。

4.インジェクターを外す

エアクリーナーを外して、その次の経路ということと、シリンダー内の水を抜けやすくするために行います。(キャブレターだと構造的に厄介ですが)インジェクターの中自体に水は残ってませんでした。念のために、中にエアーを通して乾燥させておきます。コンプレッサーをお持ちでない方は、パソコンを掃除するエアー缶などで代用してください。

5.シリンダー内から水を抜く

まずエンジン内に溜まった水を抜かなければいけません。キックが下りないということで予想はしてましたが、スパークプラグは濡れていて、シリンダー内に水があることが分かります。オイルチェンジャーを使って、プラグホールとマニホールドから可能な限り水を抜きました。

 6.シリンダー内にエアーを通す

この後の工程でエンジンオイルを注入します。シリンダーとピストンの隙間で抵抗になっている水分をコンプレッサーのエアーで飛ばし、エンジンオイルがシリンダー内壁とピストンの隙間に浸透しやすいようにします。この作業も、先のエアー缶で代用できます。

7.キックスターターのケースを外して、エンジンオイルを注す

分解する前に、キックペダルと噛み合っている芯棒のスプラインの位置に油性ペンなどで印を付けておきます。キックペダルを外して、ケースも外して、中のギアにエンジンオイルを満遍なく塗布しておきます。水が残っている場合は、十分にエアで飛ばしてからオイルを塗布してください。オイルを塗布し終えたら、ケースを元に戻して、キックペダルを組み付けます。

8.エンジンオイルを入れ替える

エンジンオイルを抜くと、油と水が分離してユラユラと玉状のものが動いていました。抜いたままにしておくと、クランクのベアリングなどは、たちまち水分で錆びるので、すぐに新しいオイルに入れ替えます。

9.シリンダー内にエンジンオイルを注して、キックペダルを踏んでみる

プラグホールとマニホールドからエンジンオイルを注して、キックペダルを踏んでみます。これでキックペダルが下りればいいのですが、今回はガッチリ固まっていて、何度踏んでもダメでした。エンジンオイルを再度注して、この日は帰宅しました。一晩おくことでエンジンオイルが浸透してくれることを期待します。

10.ジェネレーターカバーを外して、クランキング。ようやくエンジン始動

翌朝の仕事開始時にキックペダルを踏んでみましたが、結果は昨日と変わりません。

ヘッドカバーは昨日の仕事終わりに外して帰宅したので、カムチェーンが露出しています。最後に残された方法を試してみることにしました。ジェネレーターカバーを外し、空冷ファン部分に両手をかけて、〝グッ〟と力を加えて回してみると、カムチェーンがゆっくり回り始めました。すると、排気ポート部分からボタボタと液体が滴り落ちてきます。途中で〝ゴリッ〟という圧縮の手応えがあり、これ以上、手で回すのは無理。ファンを外して、改めて工具をかけて回してみたところ、圧縮のところも乗り越え、ようやくクランキングすることができました。この日はこれで定時。オイル交換や車検にリコール処理など他の仕事もしながらなので、仕方がありません。

 

翌日。他の仕事を午前中に片付けて、午後から作業再開。シートとシート下のボックス以外の部品を仮に組み付け、バッテリーも弱っていたので交換。スパークプラグも新しくしました。まずは、セルで始動を確認。その後、キックでもエンジンをかけることが出来、入庫から3日目にして修理完了となりました。キックペダルを踏んでもあれだけ硬かったのに、いざ直ってみると、なんだか呆気ない感じがしますよね。

キックペダルが下りないという現象は、あくまでエンジン側の不具合で生じた結果の一つなので。終端のキックペダルから、一番遠い場所の張り付いたピストンを動かそうとしても、力が伝わりにくい。そこにばかりに拘っていても問題は解決しない。なんでもそうですが、一つの方法を試してダメであれば、次の方法を考える…ということですね。

そういう意味で、ジェネレーター側から直接的に力を加える(=手動によるクランキング)のは、原始的ですが有効な解決方法の一つではないかと考えます。もちろん、シリンダー内に塗布したエンジンオイルが、一晩置くことで十分に馴染んでくれたことも、良い結果に繋がった要因の一つです。エンジン載せ替えということになると、同年式の中古の車体が修理代金で購入出来たりします。お客さんの立場にしてみれば、天国と地獄ぐらいの差があるのでね。