消えたワッシャー
今の仕事に就く、ずっと前のこと。
玉虫色のゼファー750を新車で買って、しばらく走っているとフロントのディスクに引きずりができた。それも両側2枚とも。取り回しの際に微妙に擦れる音がするのも気になる。そろそろ慣らしも終わろうかという頃になっても、その引きずり跡は消えなかった。
決心してキャリパーを外すと、なぜかキャリパーボルト*1にワッシャーが一枚ずつ、計4枚噛ませてあった。オーナーならわかると思うが、たとえワッシャーが通してあったとしても、外からは見えない。取り外してみて初めてわかった。ディスクの引きずりは、そのワッシャーの厚みの分だけキャリパー本体がズレて偏りができた…そう考えるほうが自然だろう。
俺は、ワッシャーを一枚噛ませた状態でキャリパーをまた元に戻し、購入したバイク店へ連絡した。『フロントディスクにできた引きずり跡が消えない』と。ワッシャーが一枚噛んでいたことは伝えずに。
数日後。バイク店から『直った』との連絡があり、ゼファーが家に戻った。
『取り外して点検しましたが、全く問題ありません。こういうことは、よくあります。しばらく走っているうちに、この跡は消えていくと思います』
バイク店のメカニックが帰ってすぐ、俺はキャリパーを外して、例のキャリパーボルトを確認した。果たして、ワッシャーは4枚とも消えていた。あの部分に、純正部品としてのワッシャーなど存在しない。本来の姿に戻ったということだ。ディスクの引きずり跡は、バイク店が説明した通り、しばらくすると消えた。
後日。オイル交換で店を訪ねた際、あのワッシャーを事前に確認していたことを伝えた。予想はしていたが、メカニックの答えは『さあ…そんなものはなかったですね』というものだった。そもそも、あのワッシャー4枚が、どの段階で組まれたものか。カワサキの製造ラインで?それはまずないだろう。無い部品は組めない。あるとすれば、納車整備で組む際に入れた?いまだに謎だ。
*1:ブレーキキャリパーをフォークに固定するボルト。