紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ

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親切な先輩

この時期になると、ずっと以前に勤めていた職場の、ある同僚のことを思い出すことがある。

 

『そりゃあ金のためだろ(笑)』

『そりゃあ女のためだろ(笑)』

 

昼食を一緒にしたり、周りに誰もいないときにそばに寄ってきて、そいつが俺の耳元で囁く。言ってることは的を射ているとはいえ、人の根源的な欲求とか当たり前のことをいつも槍玉に挙げてくる。あとは当然のように日常的に上司や同僚の陰口も叩いていた。普通こういうやつは仕事はできないように思われがちだが、こいつの場合は予想外に仕事が出来た。

 

〝…こいつは俺の悪口もおそらく他の同僚に言ってるな〟

 

気づいたときには、そいつのせいで職場の空気はかなり悪くなっていた。組織全体の雰囲気が悪くなった原因がそいつにあることを、上司も気づかない。まあ、気づくわけはないわな。そいつは要領が良かったから。

 

『あんなの…計算に決まってる!なあ、そう思わねえか?』

 

上司や同僚の悪口を散々聞かされた挙句に同意を求めてくることも度々だった。そいつは何にでも嫉妬深かった。特に、自分ができないことを、さらりとやってのける人間を妬んでいた。そんな同僚の生い立ちや環境が世間の平均以上に恵まれてると、さらにそいつの嫉妬は増した。

 

 そいつは要領がよくて、仕事ができるから。(同僚もそいつを便利に使うけれど)入社間もない人間はつい助けを求めて頼んでしまう。

 

『いいよ。俺がやっといてやるよ』

『じゃあ、お言葉に甘えて。先輩お願いします』

 

 こういうのが日常的に続くと、新入社員はいつまで経っても仕事が覚えられない。仕事が覚えられないから同じ失敗を繰り返して、当然のごとくまた怒られる。で、またその新入社員は〝あの親切な先輩〟と昼食が一緒になって話す。

 

『今日◯◯先輩に怒られちゃって』

『うん。俺も見てた。あれは出来なくてもしょうがないよ。あの人は特別厳しいから。気にするな』

 

〝仕事ができるこの人がこう言ってるんだ。やっぱあれは出来なくて普通なんだ。◯◯先輩が厳しすぎるんだ〟

 

そして、その〝親切な先輩〟と一緒にいる時間が増えるにつれ、仕事でちょっとした壁にぶつかると、できない理由を自ら探すようになっていく。端から見てると、後輩を庇ういい先輩のように映るから。上司なんかも彼らのやり取りを見てて、微笑ましいぐらいに感じるはずだ。徐々に組織全体が蝕まれつつあることに誰も気づかない。

 

『ま〜たあの◯◯先輩ですよ。本当に何なんすかね?あの人!』

『ははは。気にすんな』

……

 

 

 

最近、仕事の愚痴が増えた原因は何なのか?連休の間にじっくりと考えてみるのもいい。結果、自分の中で距離を置く人間も出てくるかもしれない。だが、そんな人間との上手な対処法はあまりない。避けたら避けたで、今度はそいつの攻撃のターゲットにされるかもしれないから。話しかけられたら適当に相槌打って、やり過ごす…ぐらいのものだ。(相槌の打ち方によっては、自分が言ったことにされるから。くれぐれも気をつけろよ)

 

『最近…職場のみんなの考えてることがわかりません』

 

あの同僚のせいで職場の雰囲気が悪くなっていった頃。俺の同期が直属の上司にポツリと漏らしたのを、俺は側で偶然に聞いた。その同期は、俺たちより頭一つ飛び抜けて、直属の上司の次の役職についていた。人の良いやつだったし、自分が孤立している原因が、まさかあの嫉妬深い同僚の画策によるものだとは気づいてなかった。(巻き込まれるのも嫌だったし)俺がその同期に『それはあいつのせいだよ』と言うこともついになかった。(特に、上司も同期も含めて男なんて単純なやつはとことん単純なもんだから、身近な人間の気持ちの裏を読むこと自体が全く頭にない)

 

後日談として。

 

要領の良かったそいつも、入社以来の長年の安請け合いが過ぎたというか、3年ぐらいの間に自分のキャパを超える量の仕事を抱えるようになってしまっていた。ある日、そいつはとうとう職場でブチギレて……あの時は上司に個別に同僚全員が呼ばれて事情を聞かれて。結構大変なことになった。