紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ

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ジレンマ

家の東側に見える山肌も、ぼんやりとした薄墨色に変わりつつある。

 

うちの庭で、トボトボと歩いてるのを最初に見たときは、犬かと思った。鋭い眼光と尖った鼻先から、すぐにキツネとわかった。母屋と倉庫の境には、田んぼの水を流す溝があり、そこを歩いていたのか、腹から足先にかけての体の下半分が泥で汚れ、濡れた体毛が垂れ下がっていた。自分と目が合っても、少しも動じる様子はなく、田んぼの畦のほうへ同じ調子で歩いて行き、姿を消した。それからしばらくして、川土手を歩いているのを見かけた。どこかに巣があるのかもしれない。

イタチは、庭で頻繁に見かける。倉庫に侵入してフンをするのが困りもので、避忌剤代わりに木酢液を撒いたりもするが、しばらくするとまた入ってくる。見かけるイタチは大抵の場合においてメスで、細長い体型を生かして、どこからでも入ってくる。鉄骨のスレート葺きの倉庫は、隙間だらけだから始末に負えない。まさに、イタチごっこだ。

梅雨のころになると決まって、芝生の上にサワガニが一匹、干からびて死んでいる。用水路から田んぼへ入ってくるものか、よくはわからない。不思議なことに、いつも毎年一匹だけが死んでいる。

畦草刈りをしていて遭遇するマムシは、ひと夏に数回は駆除をする。川や田んぼの水場が近いし、夏場などは朝起きると犬走りのコンクリートの上で涼んでいることもある。普通のヘビと違って体型は比較的太短い。風の強い日は、叢(くさむら)のなかで丸くトグロを巻いている。独特の体の紋様が保護色になり、畦草の間を移動しているのを見つけたときは、慣れているとはいえ背中に怖気(おぞけ)がさす。

さまざまな種類の動物が敷地内に訪れるが、中でも群を抜いて鳥類が一番多い。カラス、スズメ、ハクセキレイキジバトムクドリ、モズ……ざっと思い出しただけでも、これぐらいいる。裏の川が増水すると、巣から退避してきたカワセミが庭木に止まっているのもよく見かけたが、護岸工事がされてからはそれもなくなった。

昨日、キジの鳴く声を聞いた。もうどのぐらい棲み着いているのか。母衣ち(ほろうち)こそ聞かなかったが、あれは確かにオスの鳴き声だった。たぶん、土手下の葦の生えているあたりだろう。敷地内とはいえ、ゴロゴロと川の石が多く、農地としては使えない。柿の木とイチジクが一本ずつ植えてある程度だ。ここには、カヤネズミも巣を作っている。イタチと同じく、倉庫に時折侵入してくる。

 

おまえたちには悪いが、俺ももうしばらくは生きていてやらなくてはならんのだ。すまん。