春を待つ季節
『なんで一緒に帰らない?』
下校前。
その男性教諭は、俺の両隣にいじめっ子二人をそれぞれ置いて、俺を叱った。
この手の問題の処理方法としては、最悪なやり方だった。
〝先生は、何故こいつらの言い分だけを鵜呑みにするんだ〟
その時の俺の胸には疑問を通り越して、理不尽な言動の男性教諭に対して際限のない憎悪がこみ上げていた。
小学校一年の春だった。
学校を卒業して暫く経ったころ、あの男性教諭が癌で亡くなったことを風のうわさで耳にした時、心底〝ざまあみろ〟と思った。
春っていう季節は今でも好きになれない。
背中にじっとりとかくイヤな汗。
鳩尾の辺りに飲み下せない鉛のような何か。
歩道と車道の段差の水溜りに、薄汚れて浮かんでいる、桜の花弁。
バイクに乗るようになったころ、少しずつ春が好きになっていった。
いや、今でも春は嫌いだな。
ただ、春を待つこの季節は好きだ。
矛盾してるけど。
…早く、完成しないかな、俺のバイク。